微笑みの爆弾物語
少年はいつも、ふてくされがちだった。
ナイフを持つ勇気まではなかったが、
「どうせ俺のことなんて誰もわかってくれない」
一体何に怒っているのか、
ついつい触るものすべてを傷つけてしまうような日々。
今日も都会の雑踏の中を1人彷徨う。
肩が触れ合うほど、人が溢れかえる都会の街並み。
そんな日々を繰り返すほど、何故か孤独感は増していき、
柄にもなく、涙が溢れてくるようになった。
ある夜、少年は夢を見た。
それは、誰もいない果てしない草原に放り出され、
いつまでも歩き続ける夢だった。
一度その夢を見てからは、
何度も同じ夢を見るようになった。
最初は開放感に浸っていたが、そのうち、
「なんて孤独なんだろう・・」
誰にも会えないことが、
周囲に壁さえ作れないことが、
こんなにもつらく、寂しいことだったなんて。
少年は夢の中で、現実の世界と同じほど泣きたくなってしまった。
そのうち毎日同じ夢を見るようになり、
来る日も来る日も、草原の中で独りぼっちだった。

やがて・・・
夢の中で、誰もいないはずの草原の向こうから、
人々がやってくるのが見えた。
少年は意気揚々とした。
自分以外の人が存在するということだけで、
こんなにも嬉しいなんて・・・。
こちらに向かって歩いてくる。
どうやら年上に見える。
優しい人でも、怖い人でもなんでもいい、
とにかく今は、人と繋がりたい気持ちでいっぱいになっていた。
まもなく言葉を交わし、打ち解け、
毎日、その人達に色んなことを教えてもらうようになった。
厳しさ、優しさ、他人の様々な感情を素直に受け入れることで、
人間というものに魅力を覚え、
困難も恐れず前向きに生きる力が沸いてくるような気がした。
少年の心の中に、感謝という気持ちが芽生え始め、
自分もあの人達のように、人に何かを与えられるようになりたい、
そう思えるようになるほどに成長した。
やがて現実の世界でもそれを活かせるようになった時、
夢の中で会った人達と別れを告げた。
と同時に、そんな夢もぷっつりと見なくなった。
わずかな期間の出会いと別れだったが、寂しくはなかった。
はぁ・・壁を作るだけで孤独になっていたつもりの自分は、
実はまだまだ背伸びしているだけの子供だった、
ということに気づいた。
周囲に壁を作る独りよがりの孤独と、壁さえ作れない殺伐とした孤独、
人があまり経験できない二種類の孤独の辛さを認めることで、
やっと人の存在の有り難さを実感し、
少年は、前よりは少し大人になったことを自覚した。
さらに新学年、卒業式、恋人との出会い、失恋、新社会人、送別会等、
さまざまな出会いと別れを繰り返しながら時は過ぎ、
こんなことも思うようになった。
これからは人の存在の有難さを忘れず、
あの頃の自分と同じような思いをしている孤独な人がいたら、
時には笑顔で接していこう、
そうだ、生まれてから今まで、
そんな表情は性に合わなかったけど、
溢れるほどの微笑みを育ててみたい、
恥ずかしくはない、かっこ悪くてもいい、
時には、弾けるような、爆発するような笑顔で、
明るさと勇気と力を、人に与えられるような人間になってみたい、と。
−おわり−